海をわたった蝶と蛾-東アジアの鱗翅類-

海をわたった蝶と蛾-東アジアの鱗翅類-

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商品詳細

平成11年8月7日から10月11日まで開催された第26回特別展「海をわたった蝶と蛾_東アジアの鱗翅類_」 のガイドブックです。


 

はじめに

蝶と蛾を合わせた鱗翅類(チョウ目)は,世界から約165,000種,日本から約5,000種が知られている大
きなグループです。日本から記録のある蝶が約325種ですから,蛾は蝶の10倍以上の種類数があります
。当館では,昭和37年,昭和44年,昭和49年と数年おきに,蝶をテーマとする特別展を開催してきまし
た。しかし,蛾も蝶と本質的には区別できない全く同じ仲間であることから,平成2年に開催された第
17回特別展「蝶と蛾の世界―蝶のルーツをさぐる―」から蝶と蛾の両方を扱うことにしています。その
際に展示したシャクガモドキ類が蝶であるか否かという論争により,蝶だけを特別視する風潮にストッ
プがかかったような印象を持ちます。当館の前回の特別展がその一助になったのではないかと自負しています。 
今回の特別展では,「日本の蝶蛾相の成立過程」と「蝶蛾の生活」の二大テーマを掘りさげます。まず
,蝶蛾の特徴と生活を紹介し,春〜初夏の北上と秋の南下移動を繰り返す,「渡り」をする蝶として有
名なアサギマダラにスポットをあてながら,その移動の実態を展示し,移動の謎に迫ります。アサギマ
ダラとは対称的に,メスにハネがなく,移動能力がとぼしいオオミノガなどのミノムシの生活も紹介し
ます。さらに,日本の蝶蛾を「日本の昆虫のふるさと」とも呼ばれている中国大陸,朝鮮半島,台湾の
ものと比較することで,日本の蝶蛾相の特徴を明確にして,成立過程を推定する計画です。あわせて,
「三草山のゼフィルスの森」,「和泉葛城山のブナと蛾」などのコーナーを通じて,蝶蛾の生活と自然
保護について考える場を提供します。 
当館は「日本の生物相の成立過程の解明」を重要なテーマに位置づけて,東アジアの生物に関する資料
を収集する努力を続けています。昆虫研究室でも約15年前から,当時は非常に困難であった中国南部に
おける調査を,中国科学院との共同研究の形をとって推進してきました。当館の学芸員の訪中や中国調
査は,この15年間でのべ7回に達しています。この特別展ではその成果を市民の皆様に見ていただける
と思います。 そして,前回の特別展と同様に,凍結真空乾燥した蛾・蛾の幼虫を可能な限りたくさん
展示するよう努めました。凍結真空乾燥という手法で,蝶・蛾に限らず,甲虫,ハチ,ハエなどの幼虫
の乾燥標本を作製すると,かなり生きていた当時の色や形を残すことができます。当館では,いち早く
この方法に取り組み,蛾・蛾の幼虫の標本の収集に励んで参りました。収集した幼虫の標本の数々をご
覧下さい。 今回の特別展を開催するにあたり,また,この解説書をまとめるについては,下記の多く
の方々と機関から,資料や写真の提供,出版物からの転載その他で,格別にご協力,お世話をいただき
ました。厚くお礼申し上げます。特に北九州市立自然史博物館からはアサギマダラ属の標本を鹿児島県
立博物館からは北上して再捕獲されたアサギマダラ標本を提供していただきました。重ねて厚くお礼申
し上げます。 
有田 豊,井上 寛,伊藤雅男,後北峰之,内田 孝,大島新一郎,奥山清市,川副昭人,北脇真理子
,木下総一郎,駒井古実,花井美代子,平井規央,広渡俊哉,石井 実,米谷敦子,三枝豊平,坂井 
誠,佐藤力夫,Malcolm J. Scoble,嶌 洪,新川 勉,谷角素彦,冨永 修,中谷憲一,福田晴夫,
山本博子(敬称略,50音順)の方々とやさしいしぜん観察会「チョウとガの子どもさがし」とテーマ別
自然観察会「蛾・蛾の幼虫」に参加された市民の皆さん,英国自然史博物館,伊丹市昆虫館,長崎バイ
オパーク,蝶研出版,アサギマダラを調べる会,大阪府立大学農学部応用昆虫学研究室,京都府立大学
農学部昆虫学研究室,九州大学比較社会文化研究科。


 

もくじ

はじめに
Ⅰ.蝶・蛾の系譜
 1.蝶・蛾の特徴
 2.蝶と蛾のちがい
 3.蝶の系統
 4.蛾の系統
Ⅱ.蝶・蛾の生活
 1.蝶と蛾の一生
 2.食べもの
 3.チョウ・ガの天敵
Ⅲ.渡りをする蝶・アサギマダラ
 1.世界のマダラチョウ類
 2.分類学的位置
 3.アサギマダラの亜種
 4.研究史
 5.一生
 6.生活史と天敵
 7.成虫の生態
 8.食草
 9.各地のマーキング状況
10.マーキングネットワーク
11.移動の謎
Ⅳ.日本の蝶蛾相の成立
 1.大阪の蝶
 2.大阪の蛾
 3.東アジアの蝶
 4.朝鮮半島の蛾
 5.蝶のきた道
 6.遺伝子による系統分類
 7.日本の蝶蛾相の成立過程
Ⅴ.蝶蛾と自然保護
 1.ゼフィルスの森
 2.和泉葛城山のブナとガ


 

□B5版55頁